笠岡諸島アートブリッジ2023「島の色と白石踊のライブラリー」in白石島: 参加アーティストメッセージ


岩本 象一 IWAMOTO Shouichi

今まで島の方々と”舞台パフォーマンス”を通じて交流し作品発表をしてきましたが、昨年より形として残せて発信可能な”メディア”を作品にする試みを始めました。 声のアーカイブとして島の人々の声を録音し個人史を編むことで島の過去現在未来を浮かび上がらせたのが2022年。 そして今年は視覚的要素にフォーカスし映像作品に取り組みました。 かねてより島の様々な風景とそこで舞う人々の構想がありました。 そのイメージを膨らませていった結果、風景のシンメトリー構図を通奏低音として場所を変えながら人々が踊り継ぎ空間を繋いでいくような映像構成に仕上がっていきました。 カットの切り替えは音の機微と密接に繋がって進行していきます。 音楽の心臓部分として盆踊りの太鼓と仏舎利塔の鐘をサンプリングし4拍フレーズ×8を周期としています。 この形式はガムランの古典から借用しており、また8という数字には∞を暗示させています。 その揺るぎなく続いていく土台の上にガムラン楽器群が盛花のように装飾していきます。 また過去の録音物、島の祝い唄や口説きなどもコラージュし時間と空間が交差するようにしています。 シンメトリー構図が地続きとなり過去現在未来が螺旋のように繋がっていく中、音の配置や奥行きもミキシングで立体的に立ち現れるようにしました。 ヘッドホンなどでぜひ体感してほしい部分です。
また本作品は映像作家、ダンサー、染色家による揺るぎないアプローチが映像随所でコアとなり島の人々の芯の部分と共鳴し更なる深化をもたらしています。 本作品をメディアとして残し世界へ発信することで新たな出会いや気づきのきっかけが生まれることを願ってやみません。

カタタチサト KATATA Chisato

昨年は踊りを見せる形で訪れた私が、今年は映像作品を島ともに作ることになり、お話を聞いたり白石おどりを教えてもらったりしながら、島の人たちと時間を重ねることができました。 島の人が現在の肉体を持って白石踊をおどる時、または語る時に過去が蘇っているのが面白いと感じ、波がパッとはねるような両手のはらい、ああいう共通する手の動きとか下がる足の動きとか白石踊りの特徴的な部分が、つながっていくように見えたのが印象的でした。土地は、白石島にはるか昔から積み重なったものの蓄積で、街並みや暮らしも含めてゆるがない強さを持っていて。おどりは、時間を飛び越える暗号みたいだなと思ったんです。 なので、私は映像の中で、島の風だったり島に寄せる波だったり見上げる月だったり好きな物語であったり、魂や記憶、異形だけれどみなさんと共存しているものなど抽象的な存在で、みなさんの白石おどりに混じることができて、完成した映像を見て「ブラボー!一千年前を弔うことから進化してきた白石おどり、またここから一千年が始まる!」と興奮しました。 新奇な関わりとして訝しがらず受け入れてくださったのは、白石島のみなさんが未来へ開いている想いと、アートでの関わりを今まで続けてこられた方たちのおかげです。その中で、「今」脈々とつながってきた白石島の白石おどりのとクロスできたことを嬉しく思います。ありがとうございました。

羽山まり子 HAYAMA Mariko

私はインスタレーションや染色という手法で「創造的な対話の場」の制作をする美術家だ。 白石島では島に生息する植物を使った染色を媒介とした関係づくりをしている。植物を求めて島中歩き回り島民と対話すると、島の歴史風俗を身をもって知ることができる。 映像作品のために制作した染色作品は島民から教えてもらった生の営みと目にした風景、アーカイブされた白石踊に纏わる品々と書物から生まれた。材料の植物は島民が自発的なご厚意で採取してくださったこともあり、風に靡く軽やかさとは裏腹に存在の重みがある。共演者たちはどう受け取るだろう。 撮影演出編集に携わっていないため完成した映像作品で結果を知った。採石場や月の袂でカタタさんが踊るシーンで染色作品の核が生かされ新たな表現が萌芽していた。一方、構成と動線に対話が生まれる工夫をし創り上げた松浦邸の空間では来場者の対話に花が咲いていた。私の作品は人に使ってもらって成立するので、良かったと思う。

吉川寿人 YOSHIKAWA Hisato

独特の風習や文化が残る島々。歴史や暮らし、その精神性から学ぶことはたくさんあります。 白石島での滞在はそんなに長くないですが、そういったものにたくさん出会いました。今回の題材となった「踊り百景白石」もそうです。踊り手たちが生活の雰囲気をそのまま持 ち込んでくれた撮影では、改めて、白石踊りが地元にとって大切な土地の文化であり、地域外 の人にとってはその土地の奥行きを楽しみながら知ることのできるものだと感じました。多くの現代人にとって「価値がない」と思われがちな伝統文化はたくさん存在すると思いま す。新たな形でアプローチすることや、それを受け入れる柔軟さこそ、白石島の魅力ではない かと思いました。