瀬戸内海のほぼ中央に位置する笠岡諸島。島ごとに脈々と続く伝統がある。その島にアーティストが滞在し、島の人々の関わりの中で制作していった。島の記憶と日常の時間軸がアーティストとの出会いで交差し、新たな潮流となる予感がありました。
展示期間8月10日~18日(途中台風接近で14、15日は休館)
9月21~23日には、それを島から渡すべく、住吉港でドキュメント映像やトーク、ワークショップを行い、夜には、地域おこし協力隊らの協力のもと、笠岡市内の音楽家たちのライブが開催され多くの人でにぎわいました。
・住吉港「ミナト3days.ミナトナイト」9月21~23日
笠岡諸島に暮らす人々の魅力をアートの視点で再確認する3日間。
高島巡り、カフェ(杉本克敬、地域おこし協力隊山脇、井関)、音楽ライブ「ミナトナイト」、ワークショップ「大風呂敷をつくる」、アーティストトーク、映像上映など盛りだくさんの3日間でした。島に渡ったことがない人、夏に行けなかった人、行政関係者、市長、学生たちも交えたトークでは、活動の目的や今後の課題、未来に向けた展望などそれぞれの立場から広く意見交換ができました。
音楽ライブ「ミナトナイト」
ワークショップ「大風呂敷をつくる」
ミナト3daysまとめトーク
1 白石島
(1)滞在制作:松浦邸
①柳楽晃太郎
島の竹・畳・糸を使った舞台型の作品「経」。生きる活動についての情報を共有し未来につなげる集いの場を作り、この展示から派生する「事」に継続的に関わりたいと望んでいる。
②藤田龍平
松浦邸の裏庭で屋外のドローイング。島の砂や貝殻を用い、砂防用コンクリート壁に公開制作を行った。また、裏庭に竹を組んだ舞台を設置。台湾からのダンサー李さんが、ここでもダンスをした。
③吉川寿人
夏の島の日常やかつての暮らし、松浦邸の中で起こる公開制作の風景や、李さんのダンスパフォーマンスを撮影し、人々の出会いを投影した。
④杉本克敬
自生する桑の実や葉を用いたスイーツ、島に伝わってきた伝統食のスープをカフェ空間を設置して提供した。
⑤清水直人
竹のドームを島の子どもたちとつくった。
⑥松岡美江
古民家を覆うように島の古裂を集め展示した。
(2)交流
7~8月の滞在制作中には、島に伝わる白石踊の練習や公開がある。また、台風接近に伴い、防災の関係や通過後の浜掃除などに、アーティストたちが積極的に参加していると、高齢化した島ではなくてはならない人になっていく。今後も古民家などを活用して、作家が滞在しやすい環境をつくろうと動き始めている。
2 高島
(1)滞在制作:杉原信幸
高島の前作品「天目岩」は島民らに大切にされてきた。竹で組み牡蠣殻を下げているが、2年経ち劣化していた。今回、その作品を焚き上げ、作品の一部である牡蠣殻から石灰をとりだし三合土(黒砂糖、餅米、石灰と砂を混ぜたもの)をつくり、島の石を運び込んで「人口石の天目岩」を同じ場所(亀松のある浜辺)に設置した。
(2)島巡り・交流
台風のため、9月に延期して島を巡った。作品解説時には、島民が詩吟を披露、杉原信幸が舞踊で応えた。島の遺跡や巨岩を巡り、島人が作り続けている「おきよ館」の見学と、公民館で「これからの高島」について、文化・観光・暮らしの各方面からの意見交換を行った。
白石めぐり
高島に杉原信幸が滞在していると、島民たちが自主的に制作に参加する空気感が出て、生き生きとした時間が巡ってきた。「天目岩」を造形で再現し、石切りで栄えた時代、自然について感じられる空間を立ち現せた。この空間を日本遺産に認定された島の観光と結び付けていきたいと島民たちは話している。継続的に展示するには、メンテナンスと案内人の経費が掛かるが、現在はボランティアで行っている。白石島の松浦邸裏には、桜の巨木があり、春には美しい花を咲かせる。アーティストが空間に意味を持たせたことで、島民たちが自主的に場所を活かす方法を考えている。この事業を活かし、地域交流を継続させていきたい。
企画の背景と今後の方針
多様な文化の潮流を感じる瀬戸内海の笠岡諸島で、島に継承されている文化や風景を取り入れた展示、ワークショップや交流事業を行っている。 アーティストたちの滞在は初夏から始まり、展示や公開制作、パフォーマンスの期間は、島の伝統文化や日常が体感できる夏の時期と、恒常的にかかわりが持てている。 NPO法人ハートアートリンクは、同時代を生きる人の表現を家族の歴史や、地域との関係、人生におけるQOLの視点から事業を行ってきている。人と人とが出会い、繋がり、感性を交換するというアートイニシアティブから、障害者や子ども、高齢者を含めたすべての人に新たな芸術文化のプレゼンテーションとすることをねらいとして、瀬戸内海国立公園に制定されて80周余年を迎えた島々で、アーティストと島民が共同で時間軸(縦糸)と分野軸(横糸)で織りながら、人と人との繋がり・関係性を可視化させている。 今後も、家族や島の歴史を紡いできた人と、新たにやってくる人出会う人を島に流れる時間の振幅を持って近未来社会として描き、島から新たなアートブリッジを渡すことができればと継続実施を期待している。